忍者ブログ

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

コメント

現在、新しいコメントを受け付けない設定になっています。

無題

オルテガが拳を握り、ケリーの顎を殴った。彼女は声もなく倒れた。
「さて、口の減らないお嬢さん、今のはどうだった?」
ケリーが目を覚ますと、また太陽が顔を照らしていた。オルテガの船に乗ってから二日
目、いやもしかしたら三日目だと思った。予想したとおり、彼女はずっと船酔いしていた。
溺れた人魚船酔いがひどくて、オルテガに殴られても感じなかった。彼のズボンや靴、一度などはシ
ャシにまで吐いた。皮肉にも、船酔いに苦しんだおかげで、生き長らえることができた。
今また意識が戻っていた。まだ失神していると思わせたかったので、ケリーは動いたり
目を開けたりしないでいたが、胃が引つくり返るような気分はやっとおさまっていた。船
いかh″な
が錨をおろし、海は比較的凪いでいるとわかるまでに少し時間がかかった。恐怖が胸につ
き刺さる。酔っていないのがばれたら、おそらく殺されてしまうだろう。
神さま、ここから助けだしてください……お願い!
船尾で足音がした。寝返りを打って見てみたかったが、拷問者と顔を合わせたくなかっ
かもめ
た。頭上のどこかで鴎が鳴いた。そして、静けさを破るその羽音とともに、もう一羽、さ
らにもう一羽の鳴き声がした。耳を澄ますと別の耳慣れた音が意識に入ってきたが、烏の
声よりは遠くに聞こえた。岸に打ち寄せる波の音だ。それにしても、どこの岸だろう..….
ここからどれくらい遠いのか?オルテガがどこに錨をおろしたのかさえわかればいいの
だが。
「目を覚ましたぜ」
ホセ・ガルサだ。彼の声だとわかったケリーはうめき声をあげ、もはやおなじみとなっ
た冑のむかつきl再び胆汁がほとばしりでる合図となるむかつきが戻ってきてほしいと
願ったが、冑はぴくりともしなかった。
「もう一度おれにげろを引っかけたら、その場で殺してやるからな」
ドミニク・オルテガの声だった。ケリーは無言で祈り始めた。
ブーツの先であばらを蹴られ、痛みで集中力が吹きとんだ。うめきながら転がろうとし
たが、両手首がデッキにしばりつけられていた。
「起きあがれよ、この雌犬め」
ケリーは目を開けた。オルテガが彼女に身を寄せ、喉にナイフをつきつけていた。
「それなら手を自由にしてよ」彼女は文句を言った。
ひもオルテガは眉をひそめたあと合図をし、ホセがさっそく紐をほどいた・
ケリーは穏やかに揺れる船の上で自分がどれだけ平衡を保てるか試すように、ゆっくり
と半身を起こした。目をあげるとオルテガの拳が飛んでくるところだった。それを避けよ
うと体をひねったので、拳は彼女の顎の横ではなく後頭部にあたった。殴られた痛みとと
もに、オルテガの指輪が皮肩を切り裂いたときに頭を走った痛みも、生半可なものではな
かった。
ケリーは衝撃で後ろに倒れ、それから横向きになった。ふと、頭のなかに母の面影が浮
かんだ。母は九年ほど前に亡くなっている。もしかしたら神さまはこうやって、あの世へ
〃渡る〃心がまえをさせてくれるのかもしれない。そのとき、オルテガに髪をぐいとつか
まれた。


「おまえの連絡員は誰だ?」彼がうなった。「そいつになにを伝えた?」
ケリーはあおむけになり、怒りと憎しみに燃えた目を向けた。
「わたしが口を割ると思っているなら、あなたは見かけ以上に頭がおかしいわ。一度くら
い、男らしくあきらめなさいよ」彼女はぶつぶつ言った。
オルテガはせせら笑った。「どれだけ男らしいか、今見せてやる」彼はベルトをはずし
始めた。「そんなの、誰だって似たようなものよ」そう言ったケリーは、ホセがナイフの刃を両足
の裏に走らせたのを感じて、うめき声を押し殺した。
簡単にあしらわれて、オルテガの憎しみはさらに募ったようだった。デッキで陵辱しよ
うと彼女に近づいたが、ちょうどそのとき、後方で叫び声がした。
「火事だ!」と叫ぶ声を聞いてほっとしたのは、ケリーも生まれて初めてだった。
オルテガはぱっと振り向き、ホセに彼女を見張っているよう言いつけ、デッキの下に続
くドアへ突進した。
ホセはにやりとしながらケリーの脚をまたいで立ち、次は自分の番だと宣言するかのよ
うにズボンの前を撫でてみせた。
だが、ケリーは怖くなかった。実際のところ、この瞬間、ふたりきりになれるなんて、
ホセの存在は天の恵みのようなものだ。合図があったかのように彼は身をかがめると、ド
レスに手をのばして引きちぎった。ケリーはパンティを除けばまったくの裸になってしま
った。彼女の豊かな胸に目がいくと、ホセは思わず口を開けた。
そのとき、ケリーは両脚を胸に引きつけて蹴りあげ、右足のかかとでホセの鼻の骨を頭
にめりこませた。ホセ⑥ガルサはデッキに倒れる前に死んでいた。
ケリーが立ちあがり、ホセの手からナイフをつかみとったとき、銃を持った見張りが階
段をかけあがってきた。彼女は今度も蹴りを浴びせた。そして骨が折れる音を聞き、折れ
た首の上で頭ががくりと垂れたのを見てほっとした。
時間がなくなっていくなか、ケリーは地平線を眺め、信じられない思いで陸地を見つめ
ていた。夢を見ているのでなければ、そこにあるのはガルベストンの町だった。
身がまえる間もなく、誰かが階段をのぼってくる足音が聞こえた。下でなにが燃えたに
せよ、火事はおさまったらしい。オルテガが現れたのを見て、ケリーは身をこわばらせた。
彼はデッキにあるふたつの遺体を見て、銃に手をのばした。彼が銃をベルトからはずさな
いうちに、ケリーはナイフを投げた。ナイフはぶすっと音をたててオルテガの胸に刺さり、
柄まで埋まった。艫織から飛びこむ前に最後に見たのは、彼の顔に浮かんだまさかという
表情だった。
自由という名の冷たい水がケリーを包んだ。オルテガが死んだとしても、危険が去った
わけではない。船にはまだ人がいるし、銃を持っているのはわたしではなく彼らのほうだ。
溺れた人魚
PR

コメント

お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字

プロフィール

HN:
No Name Ninja
性別:
非公開

カテゴリー

最新記事

P R